山口祥平氏は、現代美術家・川俣正のプロジェクト研究をきっかけにアーティストのアーカイヴに関心をもち、以降、現代アートのアーカイヴを対象に研究を進めています。本講義では、国内外のアーカイヴ事例(ドイツ・ドクメンタなど)を紹介しながら、現代アートのアーカイヴがもつ多様な可能性について解説します。アートの現場に関わる人はもちろん、アーティスト自身にとっても、アーカイヴの必要性や意義について考えていただける機会となります。
プロフィール

山口祥平(やまぐちしょうへい)
大分県立芸術文化短期大学国際総合学科准教授
千葉大学大学院社会文化科学研究科博士課程単位取得退学。東京芸術大学先端芸術表現科非常勤講師、首都大学東京システムデザイン学部助教を経て、現在に至る。研究分野はアートマネジメント論、アートプロジェクトや国際美術展の運営体制やアーカイヴに関する研究を進めている。研究活動と並行して、現代美術家・川俣正のプロジェクトをはじめ、様々な現代アート企画の運営に携わる。2015年には、大地の芸術祭2015十日町中心市街地プロジェクト・ディレクターをつとめる。2018年には現職でアートマネジメントプログラムの新設に関わり、以降当プログラムの運営に従事している。
アーカイブ
基礎講座最終回は「アーカイヴ」をテーマに研究と、アートマネジメントの実践を行なっている大分県立芸術文化短期大学国際総合学科准教授の山口 祥平さんに講師としてお越しいただきました。
本講座は8月28日開講予定でしたが、台風10号の影響を受け、日を改め無事開催されました。
最初に、山口さんの自己紹介として、横浜トリエンナーレでの現場でのアートコーディネーターとしての実践の数々から、作家 川俣正の活動コーディネートを通して、川俣正の制作にまつわる膨大な資料(紙媒体、写真、視聴覚媒体など)のアーカイブについての調査をおこないました。
その後、野外や街中で活動するアーティストのマネジメントを行うようになり、大地の芸術祭2015 キュレーションを担当され、淺井裕介や、街中で活動するアーティストとの街中での実戦についてと、仕事の内容や置かれる労働環境について伝えられました。
国際芸術展運営の目まぐるしい環境に「持続可能なやり方を考えられないか」と思案しながら仕事をしていたと語られました。
続いて、「運営現場はサスティナブルではない」と研究と実践を往復しながら得た課題から、「他の国際美術展はどのように運営をしているのか」と、疑問が湧いてきたことで、長く運営が続いているイタリア「ヴェニス・ビエンナーレ」、ドイツ「ミュンスター彫刻プロジェクト」、ドイツ カッセル市「ドクメンタ」を調査し、とりわけ『ドクメンタ』のアーカイヴがユニークであったため、研究を行なってきたとの経緯を話されました。
アーカイヴ事例についての説明の前に、用語の説明がありました。
「アーカイヴ」とは「組織や個人の活動の中で生み出された資料を、いろいろな目的のために、情報資源として保存し活用すること」とことで「活動」「収集」「整理」「保存」「活用(公開など)」の流れや、アーカイヴの学術的視座についてを知りました。
「プロジェクト」とは、計画、企画、事業のことを指し、Pro(前)-ject(投げる)ことで、プロジェクトを行うことで何らかの波紋が現れると説明されました。
最後に、アーカイヴの種類として、組織の活動の中で自然発生する資料などの「機関(組織)アーカイヴ」と、個人の意図によって集められる「収集アーカイヴ」の2種類があり、今回は「機関(組織)アーカイブ」について、アーティストプロジェクトと、ドクメンタにおけるアーカイヴの事例をあげられました。
事例1、アーティスト 川俣正のアーカイヴについて。
プロジェクトのファイルを制作する際は、ファイルに使用する備品は使用規定を設け、ファイリング手順や収集物なども定めている。業務検証のため資料を保管し、予算やスケジュールなどや成果を振り返ることを目的にしています。
事例2、国際芸術祭ドクメンタのアーカイヴについて。
ドクメンタ運営会社の一部門が担っており、スタッフは35名で構成されている。運営の継続開催に向けて「場当たり的」な運営を改善するために1961年に設立された。アーカイヴはシンプルな項目分けでされている。目的は、過去の事業経験の活用であり、広くドクメンタ・アーカイヴ閲覧室とオンラインにて公開されています。
2つの事例の考察として、独自のアーカイヴ手法により収集保管を優先させたやり方であること、同時代芸術の将来の評価や批評の可能性のための情報源として成り立っている。ことを学びました。
質疑応答では「アーカイヴの保管先の行き先について」「ドイツはなぜ芸術祭への多額の費用を捻出できるのか」「ドクメンタの意義について」「アーカイブの活用状況など」「写真でのアーカイブのポイントについて」などと、次々に発言される質疑に対して、山口さんは丁寧に講義の内容を掘り下げ、事例を伝えながら細やかに応答されました。
受講生は、アーカイブの手法を知ることで、それぞれの問題や課題へと向き合う方法の一つを学びました。
