アートNPOや文化芸術活動を運営する上で避けて通れない「財源」について考えます。レクチャーでは、日本の文化政策における補助金の仕組みや海外の事例を交えた解説を行います。また、アートNPOの立場から補助金の活用方法を検討するワークショップも実施します。これらを通じて、「財源」について深く理解していきます。

日時
①9月4日(水) ②9月11日(水) ③9月18日(水) ④9月25日(水) 各日19:00〜21:00
会場
大阪公立大学梅田サテライト 108教室(9/4,11,25)
NPO法人ココルーム・釜ヶ崎芸術大学(9/18)
講師
水上啓吾(大阪公立大学大学院都市経営研究科准教授)
上田假奈代(詩人、NPO法人ココルーム代表理事)

プロフィール

水上啓吾(みずかみけいご)
大阪公立大学大学院都市経営研究科准教授

横浜国立大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学、博士(学術)。鳥取環境大学を経て、2013年より大阪市立大学創造都市研究科准教授。主な著書に『交響する社会』(ナカニシヤ出版)、『ソブリン危機の連鎖』(ナカニシヤ出版)など。
この半世紀、世界的に「グローバル化」や「分権化」という言説が広がり、地方政府の役割が注目されるようになってきました。その一方で、少子高齢化が進行する日本においては、大規模な自然災害や感染症といった社会に深刻な影響をもたらす事象を契機として、地方自治体の資金調達方法や公共サービスの供給方法が変化してきました。その際、地方自治体は、制度面では上位政府である国との関係に規定されつつ、住民や諸団体、民間事業者等との連携方法を模索しています。こうした現状について財政学や地方財政論のアプローチにより研究しています。

上田假奈代(うえだかなよ)
詩人、NPO法人ココルーム代表理事

1969年・吉野生まれ。3歳より詩作、17歳から朗読をはじめる。10代後半から20代前半に京大西部講堂で活動し、「下心プロジェクト」を立ち上げ、トイレ連れ込み朗読など行い、生きることと表現の関わりをさぐる。2001年「ことばを人生の味方に、詩業家宣言」。2003年、大阪・新世界で喫茶店のふりをしたアートNPO「ココルーム」を立ち上げ、釜ヶ崎に移転し、2012年「釜ヶ崎芸術大学」開講。2016年ゲストハウスのふりもはじめ、釜ヶ崎のおじさんたちとの井戸掘りなど、あの手この手で地域との協働をはかる。2013年から、65歳以上の単身生活保護受給者の社会的つながりづくり事業での表現プログラム、2021年から64歳までの生活保護受給者の就労準備支援の表現プログラムをコーディネートする。大阪公立大学都市科学・防災研究センター研究員、NPO法人こえとことばとこころの部屋(ココルーム)代表理事。堺アーツカウンシル プログラム・ディレクター。大手前大学非常勤講師。

アーカイブ

9月4日(水)

2024年9月4日(水)大阪公立大学「EJ ART」のゼミナールのうち、全4回講座「地域共生と財源論」がスタートしました。講師として大阪公立大学大学院都市経営研究科准教授の水上啓吾さんと、指南役として詩人でありNPO法人ココルーム代表理事の上田假奈代さんをお迎えしました。

はじめに、受講生はそれぞれの現場の状況や課題について自己紹介とあわせ共有しました。その後、水上さんの自己紹介があったのち、水上さんよりアートNPOや文化芸術活動を運営する上で避けて通れない「財源」についての講義が始まりました。

1つ目に、「財政学の射程と経済主体としての非営利団体」として、家庭・企業・政府の関係を図形に落とし込み、私たちの生活と政治や企業との関係性を結びつけながら、貨幣では現しにくい非営利団体の経済循環の立ち位置を示されました。
2つ目に、「国と地方の文化関係費」として、文化庁の予算の内訳の紹介と、地方の文化関係経費は予算としては国よりは大きいものの、バブル崩壊後少し伸びたのち約半分ほどまで経費が落ち込む様子と、国策による関係性についてを学びました。

経済の体系や仕組みを学んだのち、ディスカッション1「今後の国・地方自治体の文化関係費はどのような内容が望ましいでしょうか。」をテーマにグループに分かれ話し合いを行いました。
「箱物を新たに作るのではなく多様な使い方を起点に考え、文化芸術のプロフェッショナルの有無に関わらず、誰もが使える様な仕組みができたら良いのではと考えるが、どの予算が使えるのか」「文化芸術の効果が財源元に評価されにくいことと、投資の観点が必要と考え、地域貢献的な評価を求めながら財源の確保もあるのでは」「長期的な観点で評価がされることができたらいいのでは」などの発表がありました。

休憩後、水上さんより「財政における文化関係経費のあり方」について、アダム・スミスの古典派経済学と、ワーグナーらによる正統派財政学の、文化と経済の捉え方の差異について学びました。文化関係経費の市場経済や政府の政策により、顔見知りだけでは賄いきれない共同体の崩壊状況から現れる、文化事業の立ち位置を知ることとなりました。財政社会学では「共同体の祭事」の代替として文化関係事業が必要であり、公共経済学では「技術革新を支える文化」としてのの側面から、芸術文化支援が経済の効率性の観点から評価されることを受講生は自身の現場と照らし合わせ考える機会となりました。

上記を踏まえて、ディスカッション2「地域の社会課題に関する芸術文化事業費を増やすためにはどの様な方法があるでしょうか」をテーマに短い時間での話し合いがありました。「社会課題の解決として福祉の予算を横断的に捉え、目を向けて予算が増えるのでは定量の評価は必要であるが定性的な補填は必要ではあるが、財政には民意が反映されるをことをふまえると、市民はコモンセンスを意識する必要がある。たとえば障がい者への予算がまだまだつかないことも考えると、誰が判断し評価するのかを現代の議員制の限界を、文化事業として限界を感じており、市民の意見を反映させる仕組みが必要」「文化芸術のすべてが経済指針で測れるのもではない、社会共通認識へむけ文化事業関係者は働きかける必要がある」と発表がありました。

水上さんより、「解決を考える上で芯を捉えている」との講評のもと、縦割り社会の中で壁がどうして生まれるのか、どのように超えていくかを、次回一緒に考えていきたい。とゼミナール2回目の課題を示されました。

9月11日(水)

2024年9月11日(水)「地域共生と財源論」第2回「アートに関する事業の資金調達と財政」を、講師に水上啓吾さん、指南役に上田假奈代さんをお迎えし開催しました。

講義は3つのテーマに分けて進められました。
講義テーマ1、「集権融合型の分散システム」について、国の予算と地域行政の関係と内訳を示したのち、税の内訳の使い道などを説明し、日本財政は国の意思が地方に伝わりやすく、集権融合の分散型の特徴があると学びました。
地方交付税の内訳や、費用の算出計算や文化に使える予算の作られ方ついて紹介したのち、地方財政が決定するプロセスやスケジュールについての説明がありました。
文化に関する国庫負担金はなく、国庫補助金・助成金でしか付けられていないことを知りました。よく文化芸術の資金は、バッファーに使われるといいますが、資金の乏しさや不安定さは資金の調達先に関係していること、地方財政対策と国の折半ルールについてを知ることとなりました。

上記の現状を踏まえ
ディスカッション1:「日本の税制運営において融合型を維持するのはなぜだと思いますか?」をグループで話し合いました。「地方の均一化をはかるため」「地方の平等化を国がコントロールしている。これにより特色が出にくい弊害がある」「トップダウンであることで安全を担保しつつ、その流れを変えていないだけでは」との発表がありました。
また、質問に「分権型にすれば国はもっと力(労力など)を分散できるのでは」に対し、「地方自治体が勝手にやってしまうと危機的な状況が起きた時、手出しできなくなる危機感を国は持っているのでは」と応答されました。

つぎに、講義テーマ2「租税が抱える矛盾」について、近代国家の租税の根拠を、アリストテレス以降の有機体国家観に基づき、社会の上位に国家を位置付け納税を義務とする「租税義務説」と、ソフィスト派の考えに基づいた「租税利益説」についての説明がありました。国と地方の関係性と、使い道を決めて租税を取ってはダメだという考え「ノン・アフェクタシオンの原則」など紹介し、租税に対する自治の必要性と集権融合型で進める、地方行政事業についての限界についてを、「融合型で難しいと感じる面は、補助をきちんと国が支払おうとすればするほど、自由に使える資金が地方自治体はなくなっていくことになる」と話されました。

さいごに、講義テーマ3「古くて新しいアプローチ」について、戦時税制による日本における「小さな政府」と「グレーゾーン」について紹介されました。戦後にできた酒税から、80年代、90年代かけた、郵便貯金や財政機関の関連団体先との財源について、また、公民連携や寄付制度の変遷について、戦後から現代までの財源の確保の歴史と、現代に新しく現れた税収について学びました。

ディスカッション2:「地域共生の観点から「公民連携」や寄付税制をより望ましいものにするとしたら、どのようなあり方が考えられるでしょうか。」をテーマに再度グループで話し合い「お金だけじゃない寄付のあり方も考えることで、地域との共生を意識したものになる可能性があるのでは」「地域通貨の文化版ができたら、地域の特性に合わせた文化の底上げができるのでは」「投資信託のシステムとしてその目的に賛同した人たちが会社に資本を預けることを活用した地域貢献のあり方」「寄付のメリットを上げること、地道な活動へも資金が回るようなシステムが必要」などとの発表がありました。

水上さんより、寄付税制の変遷を紹介したうえで、元々の政府が作ってきたシステムが働かなくなってくることを危惧していると語られ、「地域共生と財源論」第2回を閉じられました。

9月18日(水)

2024年9月18日(水)、「地域共生と財源論」第3回「アートに関する事業の資金調達と財政」を、講師に水上啓吾さん、指南役に上田假奈代さんをお迎えし、ココルームにて開催しました。

この日は受講生に加えて、基礎講座やAOPゼミナールも担当してくださっている南田明美先生と、ゼミ生6名も参加しました。

この日は3つのセクションと質疑応答で構成されていました。最初に、水上講師から「資金調達の現状と課題」をテーマに非営利団体の財源について解説がありました。講師はストラクチャー図や表をプロジェクターで投影しながら、NPOの財源を「会費」、「寄附金」、「助成金/補助金」、「事業収入」の4つに分類し、それぞれの概要、特徴、留意点について詳しく説明しました。

続いて、NPOの資金調達に関する現状、特に2022年の統計を基にした収入源についての話が続き、財源構成については図を用いて解説が行われました。

さらに、具体例として芸術・アートに取り組む93のNPO団体から抜粋した2023年の経常収益の内訳比率についても紹介されました。これらの団体は、経常収益額に基づいて6つの規模に区分され、それぞれが上記4つの財源にどのように依存しているかが詳細に説明されました。

経常収益が大きい団体ほど事業収益が多く、芸術・アート活動以外にも収益基盤を持っている団体がいくつか見られました。財源をどのように増やしていくかについては、「多様な財源を持つことで組織の安定性が向上する」、「どの財源を増やすかは団体の活動内容と密接に関係している」という2つの点が重要であると指摘されました。

次に、上田さんからココルームの実情についてのお話がありました。まず財源の話に入る前に、ココルームの成り立ちやこれまでの歩みについて説明がありました。プロジェクターには、ココルームの年表が投影され、各時期に活用した助成金や補助金、クラウドファンディングの経緯についても触れられました。特に、横浜トリエンナーレに出場した際に初めて挑戦したクラウドファンディングのエピソードが印象的でした。

通常、クラウドファンディングは序盤と終盤に寄付が集中することが多いですが、ココルームでは期間中に一定のペースで寄付が集まったのが特徴であり、非常に珍しい事例として紹介されました。

上田さんは、2003年以降ココルームを運営する中で、「寄附」、「助成金や補助金」、「自主事業」の3つの柱を軸にし、どれか一つが途絶えても他の柱でカバーできるよう心掛けているとのことでした。

短い休憩と質疑応答を挟んだ後、最後のセクションとして「手紙を書く」ワークショップが実施されました。このワークショップでは、財源を必要とする団体や個人になり代わり、寄付や助成金をお願いするために、想いを手紙に綴って伝えるという内容でした。

最後に、それぞれの立場で書かれた手紙を数名が発表し、想いを共有する場となりました。

9月25日(水)

ゼミナール「地域共生と財源論」第4回
2024年9月25日に梅田サテライトにて「参加型予算における資金調達とアートの役割」を講師に水上啓吾さん、指南役に上田假奈代さんをお迎えし、開催しました。
これまでの3回の講座の、財政学における文化政策の位置付け、公的資金の地方と国の関係と文化事業の財源について、現状のアートNPOは会費、寄付、助成金を資金源にしていることを振り返りました。
そのうえで、日本におけるオルタネティブナ財源調達の方法に、金融市場は揺り戻しを繰り返しながら拡大し続けていること、市場の拡大に対して、アートは市場に乗れるものと乗れないものがあり、地域的な制約を受けやすいアートをどうしたら良いか。を考えた時に、参加型予算制度を紹介したいと話されました。
この制度の始まりはブラジルのポルトアレグレ市で、ドイツの移民が多いエリアでした。1980年代のアメリカの金融政策の波に乗れなかった、ブラジルとメキシコが財政破綻をしたのち財政再建を進めていくなかで、住民団体や地域の労働組合が中心となり運動を起こし、1989年に新市長が誕生した。新市長が新体制を起こすにあたり、みんなで一緒に考えたい。と参加型予算制度は始まり、都市部を中心に広がりを見せています。
日本では、杉並区では令和5年度より、防災(森林環境譲与税)の使い道についてにかぎり参加型予算制度行っている。との紹介がありました。
現代では、マドリードをはじめとし、参加型予算制度のデジタル化が進んでいる。目的として貧困層や若年層の参加を促すためである。またマドリードでは総予算の3%を参加型予算制度にあてているとのことです。
イギリスの例として、参加型予算制度の課題について話された。地域とのつながりのある団体に票が偏ったり、わかりやすさや情に訴えかける企画、費用対効果を求められすなど、芸術の質、多様性、革新性を脅かすのでは?と議論された。これに対し、リスクと利益の両方があり、市民へのアートへの理解や関心が高まるなどの効果もあるのではと話されました。
4回目を締めくくるワークは「事業を組み立ててプレゼンしてみましょう」です。
グループに分かれ、地域の設定から、何をする?地域の社会課題は何?予算は?などなど事業の内容を膨らませたり、精査しながらアートや地域に関わる事業を組み立てていきました。「生死観をテーマに多様な国籍の人々をつなぐプロジェクト」「コミュニティーファームを基盤とした移住者と在住者の関係作る事業」「お寺コミュニティーの再建とワークショップを中心にした子育て世代へ向けた事業」「市民センターを事業の基礎とした多文化共生事業」などの発表があり、財源の特性を考えたり、地域に目を向けたり、事業の目的や意義、方策のバリエーションが、財政学を学ぶことで、豊かに展開されていくようすがみられました。