本講座では、美術館や劇場、ホールといった既成の施設ではなく、コミュニティに根ざしたアーツマネジメントの持続可能性について、地域の文化的文脈に焦点を当てながら具体的に見てゆきたいと思います。特にアーティスト、コーディネーター(マネージャー)、地域住民という主要なステークホルダー間の関係性は重要で、時にアート側からの加害性が問題となったりします。アウトサイドとインサイドが接触する局面でどのようなことが起こるのか、その時にアートが果たせるポジティブな役割とは何か・・・などを一緒に考えます。
プロフィール
中川眞(なかがわしん)
大阪公立大学都市科学・防災研究センター特任教授
アーツマネジメント、サウンドスケープ、サウンドアート、東南アジアの音楽などについて、フィールドワークを軸に実践的研究を行う。またガムラン合奏団を創設し、活発に演奏活動も行う。主な著書に『平安京 音の宇宙』『サウンドアートのトポス』『アートの力』、編著に『これからのアートマネジメント』『受容と回復のアート』、小説『サワサワ』など。京都音楽賞、サントリー学芸賞、インドネシア共和国外務省功労賞、日本都市計画家協会賞特別賞、京都市芸術振興賞など受賞多数。近年は美術館研究に勤しむ。
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7月31日(水)基礎講座4の講師は、大阪公立大学都市科学・防災研究センター特任教授 中川眞先生です。アーツマネジメントの現場Insideと、アーティストやマネジメントOutsideのアプローチをテーマに話されました。
最初に、愛情(知識)が必要で、アーツマネジメントには、現場と取り扱うメディアに対する、知識やコンテクストが必要であると語られました。
コンテクストを知ることの例として、ガムランの歴史を例に紹介されました。その起源は紀元前5世紀の銅鼓とされ、のちにジャワ王朝の宇宙観と合わさり権力を誇示するために使われてきました。第二次世界大戦の頃にはインドネシアの文化の象徴として文化外交に利用され、他のインドネシアの音楽文化が見えにくくなってしまったり、大戦後には、政権や王権の低下のため民間へガムランは広がっていったが、権力=男性中心主義的な世界がそのまま引き継がれ、そこには女性への差別的な構造があるといわれます。このような背景を理解していないと、ガムランを広める際、インドネシアの偏った権力構造に、加担してしまうこともあることを知りました。
ついで、現場を知ることとして、たんぽぽの家(奈良市)とココルーム(大阪市)の2つのフィールド(Inside)の特徴が紹介されました。と、前者ではアートとケアの視点から多彩なアートプロジェクトが実施され、後者では詩人の上田假奈代さんが日雇い労働者らとの表現活動に取り組みます。ガムラン(Outside)が入り込むことで、社会構造に作られた人の関係や心や行動が、逆転したり、解されたりしていくようすが、映像にて紹介されました。
最後に、アート(Outside)が社会的課題(Inside)に関与する際の危機を感じた一例があげられました。私たち(アーティスト)は地域課題を利用してはいけないこと、地域には負の領域を暴き出されない権利があることが語られました。
休憩後、個人からの質問コーナーでは、アートを通じて地域に一歩踏み込みたいが、どのように行動したら良いのか。また、実践のフィードバックをどのようにとり、扱っているかなどの質問がありました。コーディネーターとしての倫理を持つこと、地域の人たちとのコミュニケーションの重ね方、フィードバックは誰のためのものか、について考えるなどとの応答がありました。
グループディスカッションののち、障がい者によるアートについての制度がまだ不十分であること。外部がはいることで地域も得るものもあるが、人と人が個人として見えてくるためには時間が必要であること。主語の向け方で変化する社会課題と向きあう難しさなどについて、各グループで話された内容を全体で共有しました。
最後に、アウトサイドとして活動する際には、自分たちの都合のよいように解釈したり、進めないことを心がける大切さについて語られた、基礎講座4回目となりました